イギリスのEU離脱(ブレグジット)で再燃するスコットランド独立機運;「沈み行く船と命を共にできるか」

 イギリスのメイ首相は、29日にEU離脱(ブレグジット)をEUに通告する。この頑迷な女史にも困ったものだが、いよいよブレグジットが現実化することになって、各所で波紋が広がっている。

◎単一パスポートの恩恵を失うシティーの金融機関

 イギリスの最大の「輸出産業」であるシティー金融街では、静かに業務の一部をイギリスから大陸に移す動きが広がっている。

 これまでシティーの金融機関は、EU加盟国の1つで営業認可を取得すれば、域内の他の国でも業務を展開できる単一パスポート制度の恩恵に浴し、コアエリアとしてイギリスのシティーで大陸も含めて業務を行っていた。それが、不可能になる。

 するとシティーの金融機関は、EU加盟国1つ1つに個別に業務許可を得なければならない。その煩雑さと不便から逃れるために、大陸に司令塔を動かす動きだ。

 ブレグジットに関連し、アメリカの金融大手のゴールドマン・サックスは21日、シティーからの異動を含め、大陸EU内拠点の人員を数百人規模で増強すると発表している。

◎EU残留が圧倒的だったスコットランド

 スコットランドでは、イギリス(連合王国)がEUから離脱するなら、沈み行く船に居続けるよりは、と独立機運が再燃している。

 スコットランドは3年前の2014年秋の住民投票で、スコットランド民族党(SNP)の行政府の提起した連合王国からの独立を否決したばかりだ。

 それが再燃しているのは、まだEUの一員が不動だった14年当時と情勢が全く変わってしまったからだ。

 18日、スコットランド行政府のニコラ・スタージョン首相(SNP党首)は、独立を問う住民投票の再実施をあらためて表明し、独立機運をさらに高める行動をとっている(写真=スコットランドエジンバラの公邸で会見するスタージョン自治政府首相)。

 スタージョン首相が強気なのは、昨年6月のブレグジットの是非を問う国民投票で、同地域では62%もの多数がEU残留を支持したからだ。そのEUから連合王国が離脱するなら、我々が連合王国に残る意義もメリットもない、ということだ。

貧困層の3分の2がブレグジット支持の矛盾

 実際、ブレグジットを決めた国民投票は、矛盾の投票であった。

 昨年、離脱を決めた国民投票の直後、イギリスの調査機関の1つ「ロード・アシュクロフト」が調べたところ、ブレグジットでイギリス経済が衰退し、それで最も大きな打撃を受けるはずの低所得層の64%が離脱に投票したことが明らかになった。その一方、いざとなれば資産も、場合によっては仕事も大陸に逃避できる高所得層と中所得層の57%は残留に投じている。

 まさに矛盾、である。

◎EU離脱で打撃を受ける貧困層なのに

 ブレグジットでまずは金融業界が、次いで関税などの貿易障壁を嫌う製造業が、少しずつイギリスから大陸に流出していくことが予測されるので、長期的にイギリス経済は衰退していかざるをえない。

 イギリス産業界が弱っていけば、税収が落ち込むので、低所得層が最も受益している社会福祉が削られるのは目に見えている。だからまずは彼らこそが、残留支持であるべきだった。

 そうならなかったのが、この国民投票の明らかな矛盾である。

 低所得層は、当然ながら低学歴層である。彼らには、イギリスのEU離脱がどんな結果を導くか正しく理解できず、ただ情緒的・即時的に「移民が職を奪う」と反発しただけ、と考えられるのだ。バカにつける薬はないと言うが、まさにそのとおりだ。

 そうした錯誤による「国民の意思」など、メイ首相の大義名分と異なり、ナンセンスである。

北海油田の枯渇は目前

 僕は、3年前はスコットランドの独立に反対だった(14年9月17日付日記:「スコットランド独立? それは愚か過ぎる選択だ!;現代史、国際経済」を参照)。

 しかし今は、イングランド主体の連合王国がEU離脱を撤回しない限り、生き残りをかけたスコットランドの独立もやむなし、と考える。

 スコットランドは、長年、同地域の経済を支えた北海油田からの収入が、油田の枯渇化で急減している事情がある(15年度の油田収入は6000万ポンド=約84億円にまで減っている)。ここに、連合王国の衰退が加われば、スコットランドはヨーロッパの貧困地域に転落せざるをえない。

◎ユーロ圏に入ることで経済離陸を展望できる

 EUに、さらにユーロ圏に入れば、新規産業の誘致とEU向け輸出産業振興の希望がある。さらに古城や氷河の残した湖水や峡谷などのハイランド地方の景観への観光も、大陸から呼び込める(写真=ハイランド地方のネス湖アーカート城)。

 スコットランド住民のやるせない気持ちに共感できるのである。

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